キュリー夫人がラジウムを取り出した手順
こんにちは。
先日キュリー夫人を題材にしたゲーム『ラジウム・クリッカー』(iOS版/Android版/ブラウザ版)を公開したのですが、その際に夫人が実際にどんな業績でここまで有名になったのか調べました。
詳しく調べた割にはゲームに生かせたのは本当にほんの一部なので恐縮ですが、せっかくなのでまとめてみました。
※化学は正直専門外なので、詳細については自信のない部分があります。記述に不正確な点などがあればご指摘等いただければ嬉しいです。
※1943年に公開された映画『キュリー夫人』のスクリーンショットを使用しています。映画公開から70年以上経過しているので権利的な問題はないはずですが、問題あればご指摘ください。
Contents
背景
1898年当時、ウランとトリウムが放射性を持つことは知られていましたが、キュリー夫妻はウラン鉱石の1つであるピッチブレンドが、ウラン単体よりも強い放射性を持つことに気づきました。そこでピッチブレンドには「未知の元素が含まれており、その元素は強い放射性を持つ」との仮説を発表しました。しかし学会の見解は、
新元素ならばその原子量が明らかでなければならないと考えていた。そのためには純粋な新元素の塊を得なければならない。
出展 マリ・キュリー – Wikipedia
というものでした。ここから、夫妻の「ラジウムの分離作業」が始まります。
原料の調達
ピッチブレンドは、ウランを含んでおり比較的高価で、さらに夫妻はピッチブレンドにほんのわずかしか含まれない物質を分離しようとしていたので、大量のピッチブレンドが必要でした。
必要な量(数トン)のピッチブレンドは高価で、研究費から捻出することは不可能だったので、しかたなくボヘミアの鉱山でウランを分離した後に廃棄されていた残渣(のこりかす)を使用することにしました。残渣であれば無償で譲り受けることができました。
分離工程
鉱石の粉砕
後の化学的処理の準備として、鉱石に含まれる各成分が露出するように原料を細かく砕きます。夫妻が入手した残渣の場合、この行程はすでに実施済みでした。
硫酸によるウランの抽出
ピッチブレンドの主な成分である酸化ウランを、硫酸で溶かし出します(抽出)。コーヒー豆を細かく砕いて、お湯でコーヒーを抽出するのに似ています。夫妻が入手した残渣の場合、この行程はすでに実施済みでした。
苛性ソーダによる煮沸処理(硫酸成分の除去)
ここから先が、夫妻の行った作業です。
まずピッチブレンド鉱石からウランを抽出する際についてしまった硫酸成分を除去する必要があります。(ラジウムなどのアルカリ土類金属と硫酸の化合物は、常温では酸にもアルカリにもほとんど溶けないため)
硫化物を、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と煮沸することによって希塩酸に溶解する形に変えます。
水による洗浄(水溶性不純物の除去)
全行程を通して何度も行われていたようなのですが、ラジウムが水に溶けない状態の際、しばしば徹底的に水による洗浄が行われます。これにより、水に溶ける成分(例えばマグネシウムの硫化物など)が除去されます。
全行程に対して言えることですが、ある分離行程1回で100%完全に分離できるとは限りません。その場合は必要に応じて同じ行程を(時にはさかのぼって)何度も実行する必要があります。
アルカリによる洗浄(ケイ素、アルミナの除去)
水による洗浄では除去できない一部の要素(ケイ素、アルミナ等)は、「アルカリによる洗浄」によって除去します。水で洗っても落ちない汚れを石鹸水で洗い流すのに似ています。
希塩酸による溶解(銀、鉛、ビスマス等の除去)
ラジウム塩はここで希塩酸に溶けるため、
飼料をとかし、濾過します。溶け残ったものは除去されます。
炭酸ソーダによる中和(カルシウム、バリウム、ラジウムの分離)
希塩酸の溶液に炭酸ソーダを加えて煮沸することで、アルカリ土類金属(カルシウム、バリウム、ラジウム)の炭酸化合物が生成されます。
ここまでの処理で、ほぼカルシウム、バリウム、ラジウムの3成分の混合物にまで絞れてきているはずです。
強塩酸によるカルシウムの除去
アルカリ土類金属であるカルシウム・バリウム・ラジウムは性質がよく似ているため、ここまでの行程では分離されていません。
ある条件のもとでは、塩化カルシウムは強塩酸に溶けますが、塩化バリウムと塩化ラジウムは溶けません。その性質を利用し、カルシウムを除去します。
分別結晶法によるバリウムの除去
最後に塩化バリウムと塩化ラジウムの分離ですが、結晶化する速さは軽い元素の方が速いという性質があるので、その性質を利用しました。
塩酸の濃度により、バリウムやラジウムが結晶化するので、溶液の結晶化した部分から溶液を作ると、ラジウムの濃度が低くなっていくので、ラジウムの濃度がほぼ0になった溶液は廃棄する、という作業を繰り返したものと思われます。
夫妻はこの分別結晶によるバリウムとラジウムの分離だけで数年費やしたそうです。
ゲームに・・してみた・・・?
『このキュリー夫妻の苦労を少しでも追体験できるゲームを作ってみたい・・・』と思って作成してみたのが前述の『ラジウム・クリッカー』だったのですが、ただ単純にクリックするだけの単純作業が辛いだけのネタゲーになってしまいました・・。
『ラジウム・クリッカー』(iOS版/Android版/ブラウザ版)
以前タマゴをクリックするだけのゲームが流行ったので、その流れで流行るかも、って思ったんですけど、流行らなかったですね。
最後に
軽い気持ちで調べ始めたのですが、自分の化学的な基礎のなさや資料の少なさもあり、正直いまだに完全には理解できていない気がしてます。まずは高校時代の化学から復習しなおそうかと真剣に考えてます・・・。
参考文献
- B・ゴールドスミス (2007年) 『マリー・キュリー フラスコの中の闇と光』小川真理子監修, 竹内 喜訳, WAVE出版.
- Hon. R.J. Strutt (1904) – “The Becquerel rays and the properties of radium” – https://archive.org/details/becquerelraysan00strugoog
- マリ・キュリー | Wikipedia – https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%BC (2015年7月6日閲覧)
- 金属イオンの系統分析 | Chembase –
http://www.geocities.jp/chemacid/chembase/inorganic/keito.htm (2015年7月6日閲覧)